これは三年前の話


私の大好きな人は人を煽ってばかりだった
やれブスだのやれ豚だのやれ糞ビッチだの
ありとあらゆる汚い言葉を人に浴びせ続けていた

私はそんな彼が最初は大嫌いだった

しかし喋ってみると彼は凄く優しくて
私は彼に恋心を抱く

次第に私たちはピュア友を通り越しハンカップル
最終的にはリアルで付き合うことになったのだ

そしてある日

私は彼の家に遊びに行った

彼の部屋には勿論パソコンがある
タスクバーにはハンゲチャットお馴染み
あのかたつむりのようなモグラのような
キャラクターが微笑んでいた

ハンゲチャットで誕生したカップルを
微笑ましく見つめているような顔に見えて
それが可笑しかった

彼のお母さんとも仲良くなった
お母さんはとても美人さんで
彼の整った顔はお母さん譲りなのだ

 

 

 

「ちょっと買い物行ってくるわ」

 

それが彼の最期の言葉だった


警察の話によると彼の乗っていた原付に
大型トラックが突っ込んだらしい


原因は居眠り運転だ

 

ピンク色のふざけた配色の大型トラックの
運転者も命を絶った

 


病院で彼の心拍数が止まったことを告げる
冷たい音

あまりの不測の出来事に私は涙も出なかった

怒りの矛先である運転手も死んだ現在
どうすることもできなかった


彼との思い出が蘇り
とても悲しい気持ちにはなるのだけれど
不思議と涙は出なかった

 

 

実感が沸かない
だって彼はまだ死んでいないんだから

 


骨になった彼を天国に見送り
私はまた ハンゲームをする
やっぱりまだ生きてる

 

 

早速 私は彼のIDでログインする


彼のIDでチャットをすると強くなれた気がした
誰にも負けない

まだ彼は死んでいなんだ

彼はこの世界で生きている
なんて素敵なんだろう

彼は死という壁を通り抜けたのだ
不死身なんだ

 

私は彼と部屋を維持し続けた

彼が言う

「俺とお前の子供って絶対強気だろうなw」

「確かにねぇw大変そうw でも絶対可愛いよ」

「うん」

私は幸せだった

 

何もいらなかった
服も雑誌も化粧品も何も

 

要るものはアバターだった

彼と会えるのはハンゲームでだけなのだから
毎日違うアバターに着替えてオシャレした


彼に可愛いと言ってもらえるように

 


毎日 私は自分のIDと彼のIDでログインする
眠るまで私と彼は話し合った

たまに彼は違う部屋に行って人を煽る
私もそれについて行く
この幸せが一生続いてほしかった


翌日 彼の部屋に遊びに行った

すると残酷な文が部屋を飾る

お探しのハンゲームIDは見つかりませんお探しのハンゲームIDは見つかりません
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お探しのハンゲームIDは見つかりません
お探しのハンゲームIDは見つかりません
お探しのハンゲ・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

涙が止まらなかった
泣いても泣いても 涙は止まらなかった

透明な血液が私の顔を汚す


「どうしたんだい・・・?」

部屋にいる彼は急変した私に困惑していた

死の宣告を受けたとも知らず


そんな彼を見るのが辛くて
思わず私はチャットを終了してしまった

 

 


彼を・・・・・殺してしまった

 


私の手で・・・・・

 

 

アァ・・・なんてこと・・・・・・

私はまた泣きに泣いて夜が明けるまで涙が
止まらなかった

大好きだった彼が死んだということに
やっと気づいた


込上げてくる思い

やっと実感できた

 

彼はピンク色のトラックに轢かれて
病室で息を引き取った

彼はもういないんだって。

 

 

今では彼のIDが消えたことを、感謝しています。

狂った私に気づかせてくれたのだから。
前へ進むきっかけをくれたんだから。

 

そんな私も今では二十歳。
新しい彼氏ができたこと
彼は許してくれるかな?